Q:永瀬正敏へのオファーについて聞かせて下さい。
A:当初から永瀬さんに近藤兵太郎役をお願いしたいと思って連絡しましたが、実はあまり反応は良くなかったのです。丁度以前から知っている林海象監督が台湾に来たので、一緒にご飯食べながら「実はいま日本の俳優のブッキングが難航しているんだ」という話をしたら、「誰?」と聞かれました。永瀬さんだと言うと「聞いたことがある。台湾映画の話が来ているが、聞いたことのない監督だと言っていた。ホウ・シャオシェン(侯孝賢)でもウェイ・ダーション(魏徳聖)でもない、マー(馬)監督という名前だと」この時、林海象監督は初めて知ったのです。この映画は僕の作品であることを。そして、彼は戻ったらすぐに永瀬さんに話すと言ってくれました。
Q:永瀬正敏のどの作品が印象的だったのですか?
A:最初に見た彼の映画は、香港の『オータム・ムーン』(アジアン・ビート 香港篇 1991年、クララ・ロウ監督作品)でした。まだ若かったですが、演技が上手い。どんな動きをしても強烈なインパクトがあった。それでいて、表情は自然で生活感もある。『SHADOW OF NOCTURNE』(アジアン・ビート 台湾篇 1991年)は見ていなかったのですが、この時のユー・ウェイエン(余為彥)監督に『KANO』に出てくれることになった経緯を話したら、「何故もっと早く言わなかったんだ、僕が連絡したのに」と言われました。(笑)
Q:実際に会った永瀬正敏の印象はいかがでしたか?
A:彼はどんな小さな動きでも、その背景にあるものまで明確に表現し、台詞のない時でもカメラにはそれらが全て映り込む。これは他の誰にもできない彼ならではの演技です。ここまで到達できる俳優はなかなかいない。彼は命を創り出す俳優です。なんて形容して良いかわからないが、本当にすごい。彼との仕事はプレッシャーも大きかった。多くの考え方を持ち、でももし相手がそれを受け入れられない時は新しい思考法を投げてくる。彼の提案はいつも納得できるものでした。彼はいつも細かいところまで考えて一日二日寝ないときがあると聞きます。すごいですね、こんなに真摯に演技と向き合っているとは。
僕は、彼とのやりとりがプロとしてとても刺激的でした。出番が多いとか少ないとか言うほかのスターとは、全く違います。
<2014.8.25甲子園にて>